今回はビジネスシーンでよく使われる「〜させていただく」という敬語表現について解説します。
ともすれば「二重敬語」と判断されてしまいそうな言葉ですが、実はまったく誤用ではありません。
正しい使い方を知っておいて下さい。
「させていただく」は、立派な敬語表現である
「させていただく」は、立派な敬語表現です。
文化庁は「させていただく」という敬語の許容度について「シチュエーションによる」としています。
「(お・ご)……(さ)せていただく」といった敬語の形式は,基本的には,自分側が行うことを,ア)相手側又は第三者の許可を受けて行い,イ)そのことで恩恵を受けるという事実や気持ちのある場合に使われます。したがって,ア),イ)の条件をどの程度満たすかによって,「発表させていただく」など,「…(さ)せていただく」を用いた表現には,適切な場合と,余り適切だとは言えない場合とがあります。
出典:文化庁『敬語のTPO~依頼の仕方~』
誤ったタイミングで使うと「誤用」だと思われてしまうのは、どんな言葉でも同じです。
「させていただく」を使うべき適切なシチュエーションを押さえておきましょう。
「させていただく」は二重敬語ではない
ちなみに二重敬語は、あくまで同じ種類の敬語を同じ言葉に対して重ねて使っている日本語表現のことを指します。
たとえば「ご参拝いたします」などは、明らかに誤った用法です。
しかし「させていただく」は「する+いただく」と別々の言葉をつなげた「敬語連結」にあたるため、二重敬語かどうかという意味ではまったく誤用ではありません。覚えておいて下さい。
「させていただく」が適したシチュエーション
「させていただく」を使うに適したシチュエーションは、下記2つの条件が揃ったタイミングです。
- 相手や第三者の許可が必要なこと
- それを行うと、自分が恩恵を受けること
例えば「喫茶店で店内の写メを撮りたいとき」に、店員の方に「撮影させていただけますか」と聞くのは、正しい用法だということです。
他にも、いくつか適したシチュエーション例を考えてみました。
- スマホショップにて「免許証のコピーを取らせていただけますか」と聞かれる
- 取引先との商談で「一度検討させていただけますか」と申し出る
上記シチュエーションは、相手の許可が必要なニュアンスを含み、また自分に恩恵があるモノゴトです。
このようなタイミングであれば「させていただく」は問題なく使って良いと言えるでしょう。
「させていただく」が適さないシチュエーション
反対に言えば「相手に許可を取る必要がないモノゴト」や「自分が恩恵を受けるものではないモノゴト」について「させていただく」を使うと、誤用だと捉えられる可能性が高まるということです。
つまり「させていただきます」というように断定するニュアンスで使うのは、適さないケースが多いかもしれません。
例えば下記のようなシチュエーションが考えられます。
- これまでに2回、転職させていただきました
- 先輩とは同じ部署で働かせていただきました
- 本日は休業させていただきます
これらが100%誤用だと断定するのは難しいのですが「正しく敬語を使う」という観点から言えば「避けておくのが無難」という見解になります。
なお、下記文が代替案です。
- これまでに2回、転職いたしました
- 先輩とは同じ部署で働いておりました
- 本日は休業いたします
誤用だと受け取られる可能性を避けるなら、上記のような表現を使うと良いでしょう。
「させていただく」は、気持ちをあらわす言葉である
「させていただく」という敬語の誤用がどうだという話をしてきましたが、これはあくまで文法的な話です。
もちろんライターが仕事として書く文章であれば「誤用の可能性を含む言葉は避けましょう」という話になりますが、一般的なビジネスシーンや日常生活だと少し話が変わってきます。
つまり「先輩と一緒に働かせていただいて嬉しかったです」と言われたとして「いや敬語の誤用だろ」なんて思う先輩はほぼいないだろうという話です。
(そこで野暮なことを言ってしまう先輩は、おそらく「一緒に働かせていただいた」と言ってもらえるほど慕われないと思います。)
何か感謝の気持ちを伝えたいとき、あるいは申し訳ないというニュアンスを含ませたいときなどに「させていただく」を使うこと自体は、さほど悪いことではないように思います。
これもまた「シチュエーション」の一環だとは思いますので、そういった背景なども含めて、適切なタイミングで「させていただく」という敬語を使用していきましょう。