当記事では「的を得る」や「的を射る」という言葉について解説します。
「的を得る」と「的を射る」は混同されやすく、また「的を得る」は誤用だとすら思われがちな慣用句ですが、今回を機に正しい意味を知ったうえで使っていきましょう。
今回は「的を得る」と「的を射る」の意味の違いや使い分け方、類義語までわかりやすくご紹介していきます。
「的を得る」は誤用ではない
「的を得る」は「事の要点をうまく捉えている」という意味で使われる慣用句です。三省堂国語辞典にも掲載されており、現在は誤用ではありません。
「現在は」としたのには理由があり、以前までは「的を射るの誤用である」とされていた言葉であることに違いありません。事実として三省堂国語辞典にも、第六版までは掲載されていませんでした。
しかしその言葉の意味や成り立ちが見直され、現在「的を得る」は独立した言葉として広く認められています。
誤用だと考えられていた理由と、見直された経緯
以前まで「的を得る」という言葉は、単に「的を射る」を勘違いして覚えただけの誤った言葉だと結論づけられていました。
理由は大きく2点あります。
- 「得る」という言葉は「手に入れる」といったニュアンスを持つため「的を手に入れる」はおかしいという主張
- 「的を射る」の発音を耳だけで覚えて「マトヲエル」と間違えて覚える方も多かった
よって「的を得る」を「的を射る」と勘違いして使っている方は、今でも昔でも「誤用」と言って差し支えありません。
しかし三省堂国語辞典が改版される際に「的を得る」の「得る」が持つ意味を解釈しなおし、この言葉は「的をうまく捉えること」として問題ないと結論づけられ、第七版からは一つの慣用句として掲載されるに至っています。
そのような経緯があり、言葉の意味が見直され、現在は「的を得る」「的を射る」それぞれが独立した慣用句として存在しています。
「的を得る」と「的を射る」の違い
「的を得る」と「的を射る」は、同じ「要点を捉える」といった意味で用いられる言葉ですが、少しだけ用法に違いがあります。
- 的を得る:慣用的な表現のみで使われる
- 的を射る:実際に的を矢で射る行為をあらわす際にも使われる
それぞれの意味を少し詳しくまとめました。
「的を得る」の意味
的を得る(まとをえる)は、事の要点を的確に捉えている・本質を突いている・理にかなった正しい見方である・まったくその通りである、といった意味で用いられることのある言い回し。
出典:weblio辞書
「的を得る」は「マトヲエル」と読み「要点を捉えている」「本質的だ」といった意味をあらわす慣用表現で使われる言葉です。
彼の発言は、実に的を得ている。
上記のように、日常的に使って問題のない言葉です。
「的を射る」の意味
的を射る
出典:weblio辞書
① 矢や弾を的に向かって放つ。また、放った矢、弾が的に命中する。
② 的確に要点をとらえる。
「的を射る」は「マトヲイル」と読み、要点を捉えるという慣用表現に加えて、実際に的に矢を命中させる行為のことも指します。
- 彼の発言は、実に的を射た内容だ。
- 弓道部に入ったが、まだまだ初心者だから的を射るのは苦手だ
大きく二つの意味を持つ言葉だと覚えておいて下さい。
「的を得る」と「的を射る」の使い分け
日常生活で慣用表現として使うなら「的を得る」と「的を射る」のどちらを使っても問題ないと言えます。
しかし文章はあくまで「送る相手」がいるものですから、相手によって使い分けると良いでしょう。
ここで判断基準にしたいのは、年齢層です。
「的を得る」は長らく誤用だと考えられてきた言葉ですので、例えば年配の方に送るビジネスメール、年配の方向けのWebサイトなどで「的を得る」を使うメリットは薄いと考えられます。
ニュアンスはほぼ同じなのですから、無理に「的を得る」を使わず「的を射る」を使った方が、無用なトラブルを避けられるであろうことは想像できますよね。
文章の目的は「読者を動かすこと」ですので、より読者に馴染みがあり、スムーズに受け入れてもらえる表現を選ぶと良いでしょう。
「的を得る」や「的を射る」の類義語
「的を得る」や「的を射る」には、多くの類義語が存在します。語彙のひとつとして知っておいて下さい。
「当を得る」
道理に適っていること、合理的であること、などの意味の表現。
出典:weblio辞書
「当を得る」は「トウヲエル」と読み、合理的であることを表す慣用句です。
「的を得る」とは少しニュアンスが違いますので、うまく使い分けましょう。
「正鵠を得る」
物事の要点などをうまく捉えている、などの意味の表現。
出典:weblio辞書
「正鵠を得る」は「セイコクヲエル」と読み、要点を捉えていることをあらわす慣用句です。
「的を得る」問題と同様、以前は「正鵠を射る」の誤用だとされていた言葉ですが、現在は慣用句として使用されています。
「正鵠を射る」
物事の急所を正確につく。
出典:weblio辞書
「正鵠を射る」は「セイコクヲイル」と読み、要点を捉えていることをあらわす慣用句です。
「的を得る」や「的を射る」とほぼ同じ意味で使われますが「正鵠」の方が少し固い表現になりますので、状況により使い分けましょう。
「正鵠を失わず」
正鵠を失わずは、慣用句というよりも「ことわざ」として使われる表現です。
とはいえ意味は同じで「物事の要点を外さず的確に捉えること」のたとえで使われますので、こちらも状況により使い分けていきましょう。
まとめ
「的を得る」と「的を射る」は、どちらも「要点を捉えている」といった意味で使える慣用句です。
日常生活では基本的にどちらを使っても問題ありませんが、より伝える相手のことを考えるなら、相手にとって馴染みがある言葉を使うと良いでしょう。
なお迷ったときには「的を射る」を使っておけば、誤用だと勘違いされることもありません。無理に使い分けなどを考えるのではなく「的を射る」で統一しておくのもおすすめです。